Toi et moi
           〜 mon aime fils 〜
                   3

「往人、大丈夫?病み上がりなんだから無理しなくてもいいのよ」
でも、出来れば大丈夫と言って。
往人はこくりと頷き言った。
「大丈夫…デパートに行きたいから、風邪、治ったし」
う〜、そこで「お母さんと一緒に」って言ってくれたら最高なんだけどなぁ。
顔色も良いし、大丈夫そうね。
「じゃ、デパートに行こうか」
そしてふたりでデパートに戦を仕掛けに出陣した。
敵地の場所はもう確認済み。
バスで行けば簡単に着くのだ。
お金が掛かるのはちょっと痛いけど、でも、この町のことをわたしはあまり知らない。
だから、分かりやすい道を通る方がいいのだ。
バス停でバスを待ち、そして、バスが来て、乗り込む。
えっとぅ、このチケットを取るんだっけ?
そして、この番号のところが料金になるのね。
……………。
………。
…。
げげっ!?
料金が520円?
高い。
この上なく高い。
往人は子供料金だから、260円か…ふたりで780円。
よおうし、こうなったら、アレを使うしかない。
まず、停車ボタンを押して…。
あ、もう押されている。
居るんだよね、これを早く押すことに生きがいを感じる人。
でも、やっぱり先に押されると何か悔しいなぁ。
あ、バス停に着いたみたい。
よし、今がアレの決行の時。
「子供2人で」
「奥さん、子供を連れて何言ってるんです?」
アレは一秒で崩れ落ちた。
「ダメですか?」
「ダメです」
無情にも運転手さんにダメと言われ、きっちり780円を払う。
「はい、ありがとうございました」
あ〜、やっぱりバスは高いなぁ。
お金が…、お金が少ない。
「はぁ」
ため息をついたわたしを不思議そうに見る往人。
「ん?何でもないのよ」
お金がないなんて、言えないもんね。
そう言った後、今まで全然喋っていなかった往人が口をあけた。
「ため息をひとつつく度に、幸せが逃げるんだって」
「そうなの?」
「うん、おじさんが言ってた」
おじさん?
ああ、住職さんのことね。
でも、知らなかった。
よし、今度からため息をつくのはやめよう。
幸せが逃げちゃったら嫌だからね。
さて、デパートに入りますか。

うわぁ、人がいっぱいいる。
往人の手をしっかり繋いでおかないと、迷子になっちゃうかも。
往人の手をしっかり繋ぐ……。
ムフッ。
さあ、往人。
わたしと手を繋ぎましょう…って、いない!!
ああ、往人どこ?
往人〜!!
探せ!!この世のすべてをそこに置いてきた。
はぁはぁはぁ。
…見つけた。
往人は、入り口で止まっていた。
人が多いので、入るのに戸惑っていたのかもしれない。
往人は不安な顔をしていた。
「ごめんね往人、先に行っちゃって」
わたしが往人の側に行くと、往人は小さく安堵の笑みを浮かべた。
そして、往人の手をしっかりと握った。
絶対に離しはしないよ。
仲良く手を繋いで歩くわたし達は、周りからどう見られるのかな?
仲のいい家族って見られるのかな?
そう思いながら歩いていくうちに衣服売り場についた。
目的はひとつ。
往人の服を買うこと。
このかわいい服もいいかも。
ああ、でもこのフリフリもいいなぁ。
でも、このジーンズも往人をかっこよく見せれるなぁ。
かわいくか、かっこよくか…。
あ〜悩むなぁ。
将来的にはかっこよく見せて女の子にキャーキャー言われるようになったらいいなぁ。
『キャー往人く〜ん』
『往人君一緒に帰ろ』
『わたし…往人君になら…』
…なんか腹立たしいな。
よし、『かわいく』に決定!!
『国崎さん、かわいいで賞ということで進呈です』
『にょわっ、こんな格好をしているなんて変態だ!!』
『ほう、君にはそんな趣味が有るのか』
『じゃあ、往人君、君は女の子の服着ちゃい隊1号に任命!!』
『変態はうちには置いとけへんな、居候したけりゃ先ず、その趣味何とかせい』
『にはは、田渕さんはちょっと変態だけど、いい人なんだよ。ゴキちゃんだって手で捕まえてくれるよ』
『却下!!』
『が、がお』
なんか、頭に走馬燈のごとく嫌な映像が入り込んできた…。
予知夢?
とってもいや〜な予知夢だ…。
フリフリはやめておこう…。
普通に選ぼう。
う〜ん、この服が良いかも。
わたしは黒いシャツを手にとる。
そして、その服を往人にあてがう。
……かっこいい。
ナウいよ往人。
母親じゃなかったら惚れてるくらいだよ。
でも、ちょっと大きいかな。
まぁいっか、子供の成長は早いから、直ぐに小さくなっちゃうのよね。
「往人、これでいい?」
往人はこくりと頷いた。
よし、これで決まり。
あとはこの服の大人用を探すだけ。
別にわたしが着るわけじゃない。
着たいんだけど…。
ペアルックしたいんだけど…。
大人用を買うのは往人が大人になった時に着て欲しいから。
往人が大人になっても、わたしは何かしてあげることが出来ないかもしれない。
往人とデパートに行くのも今日が最初で最後かもしれない。
だから…だから往人が大人になってから着る服も買ってあげたいの。
大人用と子供用の服を一式買い、次の目的地に行く。
次の目的地は、おもちゃ屋。
往人の好きなおもちゃを買ってあげるのだ。
「往人、何か欲しいものがある?」
往人は辺りを見回すが、欲しいものがないらしく、首を横に振った。
おもちゃ屋には、数多くのおもちゃが置いてあった。
普通の子供ならきっと目を輝かせて欲しがるに違いない。
でも、往人はそれらのおもちゃに興味を持たなかった。
欲しくないのか、わたしに遠慮をしているのか…。
どちらにせよ、往人のその反応が悲しかった。
それから、ウインドウショッピングを楽しみながら、往人とふたりでデパートを歩きまわった。
ふたりでソフトクリームを一緒に食べたり。
ふたりで昼ご飯を一緒に食べたり。
ふたりで試食をあさったり。
ふたりで過ごした時。
わたしはとても充実していた。
楽しかった。
思い残すことはない。
そう思った。
デパートを出ようと、出口に向かう途中、往人がいきなり止まった。
往人の目線の先には、花火が置いてあった。
数多くの花火。
今のシーズンには欠かせないアイテム。
夏の夜を彩る火の芸術。
往人は花火がやりたいのかな?
「往人、花火がやりたいの?」
往人はちいさく頷いた。
「そう、じゃあ買おっか」
わたしがそう言うと、往人は花火コーナーに駆けていき、花火を選び出した。
そんなに嬉しいんだ…。
でも、お金って残っていたっけ?
財布の中身を確認する。
210円か…。
ギリギリかぁ。
高いのを買ってあげられないなぁ。
あれ?何か忘れているような…。
何だったっけ?
まぁ、たぶんどうでもいいことよね。
「往人、200円以内でお願いね」
悲しい注文…。
往人はわたしの心情を始めから知っていたのだろうか。
わたしが言うより先に花火を選んでいた。
しかも、安いのを…。
往人は線香花火を手に持っていた。
渋いものを選ぶのね、往人は。
でも、線香花火はわたしも好きよ。
美しく輝き、そして儚く散っていく。
まるで桜の花のような姿。
花火の王道といっても過言ではないと思う。
「それにする?」
「…うん」
線香花火を買い、わたし達は出口へ向かった。
そして、バス停に向かう…。
ん?
バス?
……………。
ああああああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!
バス代、計算に入れておくの忘れてた〜〜〜〜!!!!
財布の中身を確認する。
107円…。
完璧に無理だ。
アレも使えない。
使ってもダメだったけど…。
ちなみに線香花火は100円だった。
お寺に帰るには、歩くしかないのね。
何キロ位あるんだろう。
結構あるんだろうなぁ…。
住職さんに地図を貰っておいてよかった。
住職さんには本当にお世話になりっぱなし。
お寺を出るときまでに御礼をしないといけないね。
「ねぇ往人、お母さんのミスで結構歩かないといけないことになったけど、いい?」
「大丈夫、それくらいなら平気だよ」
往人は強い子ね。
往人の頭を撫でてあげる。
「行こうか」
そして、わたし達は長く険しい道を歩むことになった。



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